所得税法37条の必要経費に「直接的関連性」は必要か――平成24年東京高裁判決とその後の国税不服審判所の判断

はじめに

個人事業者の支出が所得税法上の必要経費に該当するかを判断する際、「業務との直接的関連性」を要求する見解がある。しかし、所得税法37条1項後段は、販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用を規定しており、「直接」という語を用いていない。

東京高裁平成24年9月19日判決は、一般対応費用について、業務遂行上の必要性に加えて直接的関連性を要求する根拠はないと判断した。他方、その後の国税不服審判所の公表裁決には、直接的関連性を明示的に要求するものがある。

本稿では、「収入との直接対応」「業務との直接的関連性」「業務遂行上の必要性」を区別したうえで、裁判例と裁決の判断枠組みを比較し、両者の相違が生じる箇所を検討する。

1.所得税法37条1項の構造

所得税法37条1項は、事業所得等の必要経費について、売上原価その他総収入金額を得るため直接に要した費用と、販売費・一般管理費その他業務について生じた費用とを定めている。一般に、前者を「個別対応費用」、後者を「一般対応費用」と整理する。

分類規定のポイント例(一般論)
個別対応費用特定の総収入金額を得るため直接に要した費用売上原価など
一般対応費用所得を生ずべき業務について生じた販売費・一般管理費等業務用事務所賃料、広告宣伝費、管理費など

一般対応費用では特定の売上との一対一の対応がなくても直ちに排除されない。ただし、支出の性質、事業との結びつき、業務遂行上の必要性等の審査は残る。

また、家事費・家事関連費については所得税法45条1項1号、所得税法施行令96条による別途の検討を要する。

2.「直接的関連性」とは何か

(1)4つの概念を区別する

所得税法37条1項後段には「直接的関連性」の定義規定がない。裁判例・裁決の検討に際しては、少なくとも次の概念を分けて考える必要がある。

概念判断対象留意点
収入との直接対応その費用が特定の売上・収入に直接対応するか主に個別対応費用の問題
業務との直接的関連性支出が営む業務とどの程度直接結びつくか具体的な意味・射程は争いがある
業務遂行上の必要性当該事業・業務の遂行に必要な費用と客観的に評価できるか事業主の主観的判断のみでは決まらない
事業上の有益性支出が顧客獲得や売上増加に役立つ可能性があるか有益性のみで必要経費とはならない

(2)直接的関連性が問題となる支出

たとえば、税理士業で用いる税務申告ソフトの利用料は、業務との結びつきを説明しやすい。

他方、異業種交流団体の会費は、取引先紹介の機会をもたらすことがあっても、その会費の支出自体が当該業務の遂行上必要かどうかは、団体の目的、活動実態、支出の性質を踏まえて判断する必要がある。

こうした例は概念の説明であり、個別費用の税務上の結論を示すものではない。

(3)争点の正確な位置づけ

直接的関連性を独立の要件とする立場では、「業務に関連する」「遂行上必要」という判断に加え、その関連が直接的であることを要求する。

他方、東京高裁平成24年判決の立場では、業務遂行上必要な支出なら業務との関連性も認められるので、直接性を別個に要求する根拠がないとする。

したがって、「直接的関連性は必要か」という問いは、業務と無関係な支出も経費となるかという問いではない。

所得税法37条1項後段の一般対応費用に対し、業務遂行上の必要性に加える独立要件として「直接性」を置けるかが中心的な解釈問題である。

3.東京高裁平成24年9月19日判決――独立の直接性要件を否定

弁護士会等の役員活動に伴う懇親会費等の必要経費該当性が争われた。

東京高裁は、第一審判決の判断基準を「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」と修正した。

「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではない

また、ある支出が業務遂行上必要なものであれば、その業務と関連するものでもあるとして、これに加え直接的な関係まで要求する解釈の根拠を否定した。

この判決は、弁護士会役員の活動そのものが弁護士個人の営利事業ではないとしても、当該活動に要した支出が弁護士としての業務遂行上必要なら、一般対応費用になり得ることを示した。

ただし、全ての懇親会費を認めたわけではなく、支出内容を個別に検討している。

出典: 東京高裁平成24年9月19日判決、税務訴訟資料262号-190(順号12040)、判決3頁

4.平成25年7月9日裁決――直接性を明示的に要求

不妊治療専門クリニックの開業費、接待交際費、旅費交通費等が問題となった事案である。

審判所は、一般対応費用について、業務関連性があるだけでなく、客観的に業務との直接の関係を持ち、かつ業務遂行上必要なものに限られるとの法令解釈を示した。

業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なもの

審判所は、家事費と業務費用を区分する必要性も強調している。

もっとも、個々の費用の否認には資料や説明の具体性も関係するため、直接性の法解釈だけで結論が決まった事案とまではいえない。

出典: 平成25年7月9日裁決、裁決事例集92集

5.平成26年3月6日裁決――平成24年東京高裁判決を援用した主張への応答

(1)争われた費用と納税者の主張

司法書士のロータリークラブ入会金・会費の必要経費該当性が争われた。

請求人は、所得税法37条1項後段の文理解釈に加えて平成24年東京高裁判決を明示的に援用し、業務との直接的関連性を要件とすることはできないと主張した。

(2)審判所の判断

審判所は法令解釈として、業務と直接関係し、かつ業務遂行上必要な支出に限られるという基準を示した。

そのうえで、団体の活動内容、会費の使途、請求人の活動実態等を検討し、会費の必要経費算入を認めなかった。

請求人はクラブ会員の紹介等から実際に登記業務を受任していたが、審判所は、受任を会費支出による直接の効果とは評価せず、人的交流による間接的・副次的な効果と捉えた。

(3)東京高裁判決との相違

審判所は、平成24年判決を弁護士会の強制入会制度や会務活動という事情に即した判断と位置づけ、ロータリークラブ会費の事件とは「事案を異にする」と述べた。

ここで事実関係の区別と法律解釈の区別は分けるべきである。

会の性質や会費の使途が違うため結論が異なることと、一般対応費用に直接性を独立に要求できることとは、論理上別の問題である。

審判所は事案の相違を指摘しつつ、法令解釈としては直接性を要求する基準を維持した。

出典: 平成26年3月6日裁決、裁決事例集94集

6.大阪地裁平成27年1月23日判決と同年10月20日大阪高裁判決

税理士業等を営む個人事業者が、提携関係にある社会保険労務士らに関連して負担した事務所賃料相当額・支援料等の必要経費該当性が争われた。

大阪地裁は、一般対応費用について、次のように述べた。

直接か、間接かといった関連性の程度はさておき

大阪地裁は、当該事業・業務との関連性およびその遂行上の必要性を基準とし、支出目的や事業の維持・拡大による経済的利益への寄与などを客観的に総合評価する判断枠組みを示した。

これは、直接的関連性を独立要件としない平成24年東京高裁判決と共通する方向の判断である。

ただし、控訴審の大阪高裁平成27年10月20日判決は、直接関連性が不要だと仮定しても、本件費用について関連性・必要性を認めにくいと述べた。

したがって、大阪高裁が一般論として「直接性不要説」を積極的に確立したとまではいえない。

出典:

7.令和4年3月4日裁決――直接性基準を維持しつつ一部認容

デジタルWEBコンテンツの販売あっせん事業に係る購入代金等が争われた。

審判所は必要経費該当性の一般論として、業務との直接的関連性と業務遂行上の必要性を要求した。

その一方、会員ID取得に必要な登録申請料および1口分の購入代金は、客観的に事業遂行上必要な初期登録費用と認め、必要経費に算入した。

他方、2口目以降の購入代金は認めていない。

この事例が示すのは、直接性を要求する解釈と個別支出の必要経費性を認容する結論は両立するということである。

費用の認容・否認だけを見て解釈を推測してはならない。

出典: 令和4年3月4日裁決、裁決事例集126集

8.裁判例・公表裁決の比較表

日付判断主体・事案直接的関連性の位置づけ注記
平成24年9月19日東京高裁・弁護士会役員活動一般対応費用の独立要件とはしない業務遂行上の必要性は必要
平成25年7月9日審判所・医療クリニックの諸費用直接的関連性と必要性を要求具体的証拠も評価
平成26年3月6日審判所・ロータリークラブ会費直接的関連性と必要性を要求納税者が平成24年判決を援用
平成27年1月23日大阪地裁・提携費用等直接・間接の程度にとらわれない経済的利益への寄与などを総合評価
平成27年10月20日大阪高裁・上記事件の控訴審直接性不要と仮定して判断直接性の要否を確定させたものではない
令和4年3月4日審判所・会員登録費等直接的関連性と必要性を要求一部の支出は認容

※この表は確認した公表資料の比較であり、平成24年以降の全裁決・全裁判例を網羅するものではない。

9.考察――判断枠組みの相違をどのように理解するか

(1)家事費を排除する必要は共通する

所得税法45条と所得税法施行令96条による家事費・家事関連費の区分は、いずれの立場でも重要である。

直接性不要という解釈を採っても、私的な消費や客観的に業務の必要性を欠く支出が当然に必要経費となるわけではない。

(2)要件の相違と結論の相違は別

平成26年裁決で会費算入が否定されたことは、直ちに平成24年判決の法解釈が誤りであることを意味しない。

直接性の要否を別にしても、業務遂行上の必要性を認められなければ、同じ結論になる可能性がある。

したがって、両者を検討する際には、次の各段階を区別することが不可欠である。

  1. 抽象的な法令解釈
  2. 当該費用の具体的事実認定
  3. 当てはめによる最終判断

(3)実務における資料の意味

実務上は、支出目的と業務内容を裏付ける契約書・業務記録・会議資料・利用実績・取引履歴などを整理し、支出が事業の遂行にどう寄与するかを客観的に説明することが重要となる。

私用との混在があれば、その区分資料も検討する。

これは全事案に共通する一律の必要書類一覧ではない。

10.結論

東京高裁平成24年9月19日判決は、一般対応費用について業務との直接的関連性を独立の要件として要求しない。

しかし、確認した平成25年7月9日、平成26年3月6日、令和4年3月4日の国税不服審判所の公表裁決は、直接的関連性と業務遂行上の必要性を要求する基準を示している。

特に平成26年裁決では、納税者が平成24年東京高裁判決を明示的に援用したにもかかわらず、審判所は事案の相違を指摘し、直接性を要求する判断枠組みを維持した。

他方、大阪地裁平成27年判決には直接・間接の程度にとらわれない解釈が見られる。

したがって、平成24年判決後に審判所の解釈が一律に変更されたとはいえない。

ただし、公開資料で確認した範囲を超え、同判決を踏襲した裁決が存在しないと断定するものでもない。

今後の事例検討では、直接的関連性という用語の意味を吟味するとともに、法令解釈の相違と、費用の業務遂行上の必要性に関する具体的判断を切り分けることが重要である。

参考資料・一次資料

  1. 東京高裁平成24年9月19日判決(国税庁PDF)
  2. 平成25年7月9日裁決(国税不服審判所)
  3. 平成26年3月6日裁決(国税不服審判所)
  4. 大阪地裁平成27年1月23日判決(国税庁PDF)
  5. 大阪高裁平成27年10月20日判決(国税庁PDF)
  6. 令和4年3月4日裁決(国税不服審判所)

資料確認日:2026年10月21日。本稿は公表された判決・裁決をもとにした法令解釈の研究・実務解説であり、個別事案の税務処理を断定するものではない。

投稿者プロフィール

oshima