マーケティング資産は「簿外」だが「測れる」―― 株価と同じ、バリュー投資の発想で評価すべき理由 ――

1.マーケティングは「測れない」という誤解について

「マーケティングは効果が測れない」

このような言葉は、現在でも経営の現場で頻繁に耳にいたします。

確かに、

ブランド

顧客との関係性

データ資産

といった要素は、会計上、原則として資産計上されません。

そのため、PL(損益計算書)上では広告宣伝費として即時に費用処理され、

BS(貸借対照表)には何も残らないという扱いになります。

しかし、ここから

> 「だからマーケティングは測れない」

と結論づけるのは、論理的に見て大きな飛躍があると考えます。

2.「簿外資産」と「非資産」は同義ではありません

会計上、資産とは

将来の経済的便益をもたらす支配可能な資源

と定義されております。

ブランドや顧客関係は、

将来売上の再現性を高め

獲得コストを低減し

価格プレミアムを可能にする

という点において、明確にこの定義を満たしています。

問題は一点のみです。

> 個別識別や定量的測定が難しいため、

会計上は「簿外」に置かれている

という事情に過ぎません。

したがって、

簿外資産 ≠ 非資産

であり、この点を混同している限り、

マーケティングは永続的に「単なる費用」として扱われ続けてしまいます。

3.では、どのように測ればよいのでしょうか

―― 会計ではなく「投資」の物差しを用いる

ここで、視点を少し変えてみます。

株価は、帳簿上の純資産によって決まっているわけではありません。

株価とは、

将来キャッシュフローへの期待

その持続性

不確実性(リスク)

を、市場が総合的に評価した結果です。

ここで重要なのは、精緻さではありません。

合理的な期待値と、その幅を持って評価することです。

この考え方は、そのままマーケティング資産にも適用可能です。

4.マーケティング資産は「内部株価」として評価すべきです

マーケティング資産を、次のように捉えることができます。

> 将来のマーケティング起因キャッシュフローを生み出す

一つの「事業単位」

このように考えますと、評価軸は自然と明確になります。

LTV総額(将来キャッシュフローの源泉)

粗利率(キャッシュの質)

維持・更新コスト

ブランド毀損や値引圧力といったリスク

これらは、バリュー投資における企業分析と本質的に同型です。

したがって、

> マーケティング資産価値

≒ 将来のマーケ起因キャッシュフロー ÷ 要求利回り

という**簡易的なDCF(割引キャッシュフロー)**によって、

十分に実務的な評価が可能となります。

5.正確である必要はありません。幅があれば十分です

ここで、よくある疑問があります。

「そのようなラフな評価に意味はあるのでしょうか」

この問いに対する答えは明確です。

株価も、決して正確な数値ではありません。

それでも投資判断には十分に機能しています。

同様に、

保守的シナリオ

ベースシナリオ

成長シナリオ

といった複数のレンジでマーケティング資産価値を想定するだけで、

投資を継続すべきか

予算配分をどう見直すか

削減すべきか、守るべきか

といった判断は、驚くほど明確になります。

6.なぜ「資産は増えるほど効率化される」のでしょうか

ここで、重要な命題に立ち返ります。

> 資産である以上、資産は増えるほど効率を生む

これは決して感覚論ではありません。

ブランド認知が高まるほど、同じ広告投下でもCVRは向上します

顧客データが蓄積するほど、無駄な獲得コストは削減されます

関係性が深まるほど、追加コストの低い売上が増加します

その結果として、

CACは低下し

LTVは伸長し

投資回収は加速します

これは、ストックがフローを改善する構造であり、

まさに資産が持つ本質的な性質と言えます。

7.結論:マーケティングは「続けるほど効く投資」です

マーケティングが軽視されがちな理由は、

効果がないからではありません。

測り方を誤っているだけです。

会計の物差しではなく

投資の物差しで評価する

この視点転換がなされたとき、マーケティングは、

「削る対象」から

**「価値を積み上げる投資」**へと位置づけが変わります。

最後に(実務家の方への示唆)

マーケティング費用を「費用」ではなく「資産形成投資」として設計すること

正確さに固執せず、合理的な評価レンジを持つこと

株価を見るような視点で、マーケティングを見ること

それだけで、

経営とマーケティングの対話は、

驚くほど噛み合い始めるはずです。