資金繰り表がなくても、資金効率はほぼ見抜ける― 業種別目安で読む「運転資本・固定資産・借入金」

■ はじめに

中小企業の財務判断では、

・流動比率

・当座比率

だけで「資金繰りは問題ない」とされることが多い。

しかし実務では、

黒字・高当座比率にもかかわらず資金が回らない企業は珍しくない。

理由は単純で、

資金繰りを決めているのは「残高」ではなく「時間構造」だからである。

■ 当座比率の正確な位置づけ

当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債

当座比率は、

短期的な支払能力の「最低ライン」を確認する指標であり、

銀行や保証協会が最初に見る数値である。

ただし限界も明確である。

・売掛金が予定どおり回収される前提

・回収と支払のスピード差を反映しない

・固定資産投資や借入金返済の影響を捉えられない

当座比率は入口であって、結論ではない。

■ 売掛金回転期間(DSO)

資金効率の中核指標

売掛金回転期間(DSO)

= 365日 ÷(売上高 ÷ 売掛金)

売上が現金に戻るまでの日数を示す。

業種別目安(概算)

小売・現金商売:0〜10日

飲食業:0〜15日

製造業(下請):60〜90日

製造業(直販):30〜60日

IT・SaaS:30〜45日

建設業:90〜120日

コンサル・士業:30〜60日

重要なのは絶対値ではない。

・契約条件との差

・過去推移との比較

ここを見る。

■ 買掛金回転期間(DPO)

支払の設計は経営判断

買掛金回転期間(DPO)

= 365日 ÷(売上原価 ÷ 買掛金)

業種別目安(概算)

小売:60〜90日

製造業:45〜75日

IT・SaaS:30〜60日

建設業:60〜90日

サービス業:30〜45日

DPOは「長ければ良い」指標ではない。

・短すぎる → 自社の資金繰りを圧迫

・長すぎる → 取引先信用の低下

業界慣行との比較が不可欠。

■ 棚卸資産回転期間

最も資金を縛る要素

業種別目安

小売:30〜90日

製造業:60〜120日

建設業:120日超

IT・サービス:ほぼゼロ

在庫は、売上が立つまで一切キャッシュを生まない。

資金効率悪化の最大要因になりやすい。

■ キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)

CCC

= 売掛金回転期間

+ 棚卸資産回転期間

− 買掛金回転期間

現金が事業活動を一周して戻るまでの日数を示す。

業種別イメージ

小売:マイナス〜短期

製造業:30〜90日

建設業:60〜150日

IT・SaaS:0〜30日

CCCは事業モデルの資金耐性そのもの。

■ ここまでで資金繰りの「8割」

売掛金・在庫・買掛金による運転資本分析で、

資金繰りの約8割は見える。

残りの2割は次の2点である。

・固定資産による資金凍結

・借入金元本返済によるキャッシュアウト

■ 固定資産が資金繰りを壊す理由

問題は減価償却ではない。

取得時の一括キャッシュ流出である。

見るべき指標

・固定資産回転率

 売上高 ÷ 固定資産

・設備投資額 ÷ 営業キャッシュフロー

 目安:1.0以下

・固定長期適合率

(固定資産+長期前払費用)÷(自己資本+固定負債)

100%超は短期資金の長期固定化。

■ 借入金は「利息」ではなく「元本」が問題

・利息 → PLに出る

・元本返済 → PLに出ないキャッシュアウト

見るべき指標

・年間元本返済額 ÷ 営業キャッシュフロー

 0.3以下:健全

 0.5超:資金繰り圧迫

・借入金月商倍率

 有利子負債 ÷ 月商

 6倍超:注意

 12倍超:過剰債務圏

■ 結論

資金繰り表なし分析の完成形

資金繰りを決める要素は三層構造である。

1.運転資本(時間)

 DSO/DPO/在庫/CCC

2.固定資産(資金凍結)

3.借入金(元本返済)

資金繰りとは、

「いくらあるか」ではなく

「どれだけ速く、どれだけ安全に戻るか」の問題である。

この三層を押さえれば、

資金繰り表がなくても実務判断に耐える。