自筆証書遺言を作成しやすくするための実務上の工夫

財産目録・付言事項を整理して記載する

遺言書を作成しようと考えたとき、多くの方が最初に感じるのは「何を書けばよいのか分からない」「どこまで詳しく書くべきか迷う」という点ではないでしょうか。

特に自筆証書遺言は、ご自身で作成することができる反面、記載方法によっては作成の負担が大きくなりやすいという側面があります。

そのため、自筆証書遺言を無理なく作成するためには、最初から一つの文章に全てを盛り込もうとするのではなく、本文、財産目録、付言事項を整理して記載することが重要です。

このように構成を分けることにより、記載内容が明確になるだけでなく、作成そのものも格段に進めやすくなります。

1 本文には「法的に決める内容」を簡潔に記載する

自筆証書遺言の本文で最も重要なのは、誰にどの財産を承継させるのかを明確に示すことです。

したがって、本文には、基本的に相続や遺贈の内容そのものを記載し、事情説明や感情的な内容はできる限り分けて考えるのが望ましいといえます。

たとえば、本文は次のように簡潔にまとめることができます。

別紙財産目録1記載の不動産を長男〇〇に相続させる。

別紙財産目録2記載の預貯金を長女〇〇に相続させる。

前記のほか、遺言者に属する一切の財産を妻〇〇に相続させる。

このように、一つひとつの内容を短く区切って記載することで、遺言書全体の見通しがよくなり、後から読み返したときにも内容を確認しやすくなります。

2 財産の詳細は財産目録に分ける

自筆証書遺言が書きにくくなる大きな原因の一つは、財産の内容を本文の中で細かく書こうとしてしまう点にあります。

不動産であれば所在や地番、預貯金であれば金融機関名や支店名、口座種別、口座番号など、財産を特定するために必要な情報は少なくありません。

これらを全て本文に書き込むと、文章が長くなり、誤記や訂正のリスクも高まります。

そのため、実務上は、財産の具体的内容は別紙の財産目録にまとめ、本文ではその目録を引用する形をとることが有効です。

たとえば、財産目録は次のように整理できます。

別紙財産目録1

所在 東京都〇〇区〇〇

地番 〇番〇

地目 宅地

地積 〇〇平方メートル

別紙財産目録2

〇〇銀行〇〇支店

普通預金

口座番号 〇〇〇〇〇〇〇

このように目録化しておくことで、本文は短く整理でき、全体として作成がしやすくなります。

3 配分理由や感謝の気持ちは付言事項に記載する

遺言書を作成する際には、「なぜこのような配分にしたのか」「家族にどのような思いを伝えたいのか」という点を書き残したいと考える方も多くいらっしゃいます。

もっとも、こうした内容を本文に細かく書き込むと、法的な処分内容と説明的記載が混在し、遺言書全体が分かりにくくなることがあります。

そのため、配分理由や感謝の気持ち、争いを避けてほしいという希望などは、付言事項として本文とは分けて記載するのが適切です。

付言事項に記載されることが多い内容としては、たとえば次のようなものがあります。

このような遺産配分にした理由

長年の介護や支援に対する感謝

相続人間で争わずに手続を進めてほしいという希望

葬儀や納骨に関する意向

付言事項は、本文のような法的処分そのものではありませんが、遺言者の意思や考えを家族に伝えるうえで、実務上大きな意味を持つことがあります。

4 作成しやすい遺言書の基本構成

自筆証書遺言を作成しやすくするという観点からは、次のような構成が分かりやすく、実務上も扱いやすいといえます。

遺言書

私は、次のとおり遺言する。

別紙財産目録1記載の不動産を、長男〇〇に相続させる。

別紙財産目録2記載の預貯金を、長女〇〇に相続させる。

前各項に記載したもののほか、私に属する一切の財産を、妻〇〇に相続させる。

本遺言の遺言執行者として、〇〇を指定する。

付言事項

この遺言は、私自身の意思に基づいて作成したものです。

このような内容としたのは、それぞれの生活状況や、これまでの支援、今後の必要性などを考慮した結果です。

特定の者を軽視する趣旨ではなく、私なりに考えた上で決めた内容です。

相続人その他の関係者には、感情的な対立を避け、円滑に手続を進めていただくことを希望します。

これまで支えてくれたことに感謝しています。

令和〇年〇月〇日

住所

氏名 印

このように、本文には法的処分、付言事項には思いや背景事情という整理をしておくと、遺言書全体が非常に分かりやすくなります。

5 作成は「いきなり清書」ではなく、整理してから進める

自筆証書遺言を円滑に作成するためには、いきなり本番用紙に書き始めるのではなく、事前に内容を整理しておくことが大切です。

具体的には、次のような順序で進めると作成しやすくなります。

まず、「誰に」「何を」承継させるのかを整理します。

次に、不動産や預貯金などの内容を確認し、財産目録を作成します。

その上で、本文を簡潔にまとめ、最後に必要に応じて付言事項を加えます。

この順序で進めることで、本文作成時に迷いが少なくなり、訂正や書き直しの負担を抑えることができます。

6 まとめ

自筆証書遺言を作成しやすくするためには、難しい表現を用いることよりも、記載内容を整理して構成を分けることが重要です。

本文には、誰に何を承継させるかを簡潔に記載する

財産の具体的内容は、財産目録として整理する

配分理由や感謝の気持ちは、付言事項としてまとめる

このように整理することで、作成時の負担を軽減しつつ、内容の分かりやすい遺言書を作成しやすくなります。

遺言書は、ご自身の意思を将来に向けて明確に残す大切な文書です。

そのため、形式を整えるだけでなく、実際に読み手に伝わりやすい構成にしておくことが重要といえます。

自筆証書遺言の作成を検討される場合には、早い段階で内容を整理し、必要に応じて専門家に相談しながら進めることが望ましいでしょう。